海外旅行を計画する際、最初に確認すべきことが「その国の治安」です。治安のいい国を選ぶことで、旅の不安を大幅に軽減できます。しかし、治安の評価は複数の指標があり、単純なランキングだけでは判断しきれません。本記事では、世界平和度指数(GPI)を基軸に、実際の安全性を見極める方法をご紹介します。
治安のいい国を選ぶ前に知っておきたい「治安が良い」の基準
「治安が良い」という概念は、思いのほか複雑です。正確に理解しないと、安全なはずの国で危険な目に遭ったり、一見危険な国でも実は安全だったりする場面も起こり得ます。
「安全=犯罪が少ない」だけではない理由
治安の良さは、単に「犯罪件数」だけで決まりません。以下の複合的な要素が関わります。
- 犯罪の種類:殺人や強盗が多い国と、軽犯罪が多い国では、旅行者が受ける脅威が異なる
- 警察の信頼性と機能:犯罪があっても、警察が機能していれば、被害者保護が期待できる
- 政治的安定性:クーデターやデモが頻発している国では、予期しない危険が生じる
- 社会不安や対立:経済格差や民族対立がある地域では、暴力事件が起きやすい
客観指標で見る治安
治安を客観的に評価するための主要な指標をご紹介します。
世界平和度指数(GPI)とは何を測っているか
世界平和度指数(Global Peace Index)は、国連が後援する独立機関「経済平和研究所」が毎年発表する指標です。
- 測定項目:殺人率、暴力犯罪、武力紛争の影響、警察の信頼度、政治的安定性など、23の指標から構成
- スケール:1位(最も平和)から163位(最も不安定)まで、世界163ヶ国をランク付け
- 特徴:旅行者向けというより、「国全体の平和度」を測るため、政治情勢や軍事化なども反映される
- 更新頻度:毎年6月に最新版が発表される
参考として、指標の読み解き方や背景を補足した記事も併せて確認すると理解が深まります(ELEMINISTの記事)。
外務省「海外安全情報」を併用すべき理由
日本の外務省も「海外安全情報」を提供していますが、GPIとは異なる視点で評価しています。
- 日本人向けの視点:日本人旅行者が直面しやすい具体的なリスク(スリ、詐欺、テロなど)を詳述
- 都市別の細分化:国全体ではなく、都市ごとの危険度を4段階で表示
- 最新情報の反映:デモ発生、テロ警告など、最新情報がすぐに反映される
- 渡航レベル:「勧告」「警告」「不可」など、旅行者向けに明確な指針を提示
GPIとGPIだけで判断するのではなく、外務省情報と合わせて確認することが必須です。
体感治安(夜間の安心感・警察への信頼など)の見方
統計には表れない「現地での感覚」も重要です。
- 夜間移動の安心感:夜9時以降の一人歩きが可能か。タクシーは信頼できるか
- 警察への信頼:盗難被害時に警察に相談できるか。警察が腐敗していないか
- 市民の態度:旅行者に対して警戒的か、それとも親切か。街全体に緊張感があるか
- 旅行者向けのインフラ:観光地に多くの旅行者がいるか。セキュリティが整備されているか
ランキングの読み方と注意点
ランキングは有用な情報ですが、盲信するのは危険です。以下の点を常に頭に入れておきましょう。
国全体と都市部・観光地の差
- 首都と地方の格差:首都は警察が多く、セキュリティが充実していることが多い。地方では警備が手薄な場合も
- 観光地の集中:観光地周辺は警備が強化され、比較的安全。少し離れると治安が異なることも
- 統計の平均化:事件が都市部の特定地区に集中していても、国全体の統計では「安全」と評価される場合がある
統計と最新ニュースのズレが起きるケース
- 発表のラグ:GPIは前年のデータで評価されるため、最新の治安悪化が反映されない可能性
- 突発的事件:テロやクーデターなど、予期しない大きな事件が起きると状況が一変
- 季節変動:政治集会が多発する季節など、時期によって危険度が異なる
【2025年版】治安のいい国ランキングTOP20(概要)
世界平和度指数(GPI)の2025年版に基づいた、治安のいい国TOP20をご紹介します。
TOP20一覧の見どころ
2025年版の最新ランキングは以下の通りです。
- 1位:アイスランド:暴力犯罪がほぼ無く、世界で最も安全
- 2位:アイルランド:EU圏で圧倒的な安全性
- 3位:ニュージーランド:オセアニアの安全の象徴
- 4位:オーストリア:中欧で最高レベルの治安
- 5位:シンガポール:アジアを代表する安全国
- 6位:ポルトガル:南欧で最も旅行しやすい国
- 7位:スロベニア:東欧の隠れた安全国
- 8位:チェコ:中欧で人気の安全な旅先
- 9位:スイス:Alps周辺で知られた安全性
- 10位:デンマーク:北欧の信頼と安定
上位国に共通する傾向(ざっくり把握)
TOP20に入る国には、以下の共通点があります。
- 地域ブロック:北欧、西欧、オセアニアが圧倒的多数を占める
- 経済レベル:高所得国がほとんど。経済の安定が治安に直結
- 政治体制:民主主義が機能し、腐敗が少ない国ばかり
- 教育水準:高い識字率、充実した高等教育。これが犯罪抑止に効く
治安のいい国ランキング上位10カ国の特徴と旅行の注意点
上位10カ国について、詳細なプロフィールと旅行時の注意点をご紹介します。
1位〜3位の特徴(「安心できる理由」を整理)
最上位の3カ国は、全く別次元の安全性を持っています。
移動・夜間・人混みで気をつけたいポイント
- アイスランド:夜間の移動も安全。一人旅でも問題なし。ただし、自然災害(火山、地震)への対策は必須
- アイルランド:ダブリン中心部も安全だが、深夜の酔っ払いが多い時間帯は避ける
- ニュージーランド:都市部は安全だが、大自然での単独行動は危険。ツアーガイドの利用を推奨
4位〜6位の特徴(初めての海外でも選びやすい国)
アジアやヨーロッパで、初心者向けの安全な旅先が揃っています。
スリ・置き引きなど軽犯罪の対策
- オーストリア:ウィーンは非常に安全。駅周辺でもスリの被害は少ない
- シンガポール:アジアで最も安全。カフェでの置き引き程度。貴重品を席に置かなければ問題なし
- ポルトガル:リスボンは安全だが、観光地(ベレン地区など)ではスリに注意。バックパックはカフェに持ち込まない
7位〜10位の特徴(穴場・自然・暮らしやすさの観点)
これらの国は穴場的な魅力を持ち、旅の質が高いです。
危険エリア回避と緊急時の連絡先の考え方
- スロベニア:リュブリャナは極めて安全。一人旅でも大丈夫。ただし、セルビア国境に近い地域は避ける
- チェコ:プラハは非常に混雑するため、置き引きに注意。郊外は極めて安全
- スイス:都市部は完璧に安全。緊急通報は117番。警察の対応は迅速
- デンマーク:コペンハーゲンは安全だが、駅周辺の特定エリア(クリスチャニア地区)は避ける
安全な国でも起こりやすいトラブル
治安が良い国でも、旅行者が陥りやすいトラブルがあります。
観光地での窃盗・詐欺の典型例
- スリの多くは観光客による:実は、治安の良い国のスリ犯人の多くは、バルカン半島や東欧からの移民
- 偽警察詐欺:「違法な両替をした」と言って、クレジットカード情報を聞き出す詐欺が散発
- 飲食店での価格詐欺:観光地での価格表記ミスや、追加料金の発生に注意
公共交通機関での注意点
- 混雑時のスリ:地下鉄やバスで、特に朝の通勤ラッシュ時はスリが多発
- チケット詐欺:偽のチケット売買。公式サイトやキオスクでチケットを購入すること
- 深夜バスの安全性:一部の国では、深夜バスでの犯罪がある。タクシーやライドシェアを推奨
デモ・政治集会に近づかない判断基準
- デモの見分け方:平和的なデモと暴力的なデモを区別すること。警察が多く集まっている場所は近づかない
- タイミングの確認:祭日や記念日前後、労働組合の活動時期は要注意
- 事前情報:地元のニュースサイトやTwitterで、デモ予定を事前にチェック
【番外編】日本はなぜ上位常連でも順位が下がることがあるのか
2023年版までは、日本はTOP10に常連していました。2024年以降、順位が下がった理由を考察します。
犯罪の少なさと指数の評価軸の違い
日本は犯罪件数が極めて少ないのに、なぜ順位が下がるのでしょうか。
- GPI評価軸の拡大:GPIは犯罪だけでなく、政治的安定性、軍事支出、テロのリスクなども加味
- 日本の軍事化の評価:防衛力強化、軍事支出の増加が「平和度」の評価に影響する可能性
- 統計の再評価:若干の犯罪増加や、自殺率の高さなども指数に影響
地政学リスク・軍事化などが順位に影響する考え方
GPIは「実際の旅行安全性」とは別の軸で評価される点を理解すること。
- 地政学的リスク:日本は地震国、台湾有事の懸念など、地政学的不安定性が加味される
- 軍事化の進展:GPIは軍国化を重視するため、日本の防衛力強化が順位低下につながる側面も
- 旅行者視点との乖離:旅行者にとって日本は依然として世界で最も安全な国の一つであることに変わりはない
意外と治安のいい国・実は注意が必要な国
ランキングだけでは分からない、隠れた安全国と、見た目以上に注意が必要な国をご紹介します。
「危険そうだけど安全」になり得る国の共通点
一見危険そうに見えても、実は安全な国があります。
治安の良いエリアと避けたいエリアの見分け方
- ブラジル:全体では危険に見えるが、サンパウロやリオの観光地は警備が厳重で比較的安全
- メキシコ:薬物犯罪が多いが、観光地(カンクン、メキシコシティ中心部)は安全。危険地区は明確に分かれている
- 南アフリカ:ヨハネスブルグは避けるべきだが、ケープタウンは安全。地区ごとの判断が重要
- 共通点:危険エリアと安全エリアが明確に分かれている。現地情報で必ず確認すること
「安全そうだけど注意」な国で起きやすいこと
見た目が安全だからこそ、油断して被害に遭うケースがあります。
都市部の軽犯罪増加・観光客狙い
- スペイン・フランス:パリやバルセロナは観光客が多く、スリ詐欺犯が集中。「安全そう」だからこそ気が抜けやすい
- イタリア:ローマ、フィレンツェは非常に美しく、油断しやすい。しかし観光地ではスリが多発
- トルコ:イスタンブールは安全だが、観光客狙いのぼったくりが多い。市場での交渉は要注意
地域差(州・県・地区)を前提にした計画の立て方
- 事前リサーチの重要性:国全体のランキングより、行き先の都市のニュースをチェック
- タイミングの確認:いつ訪問するかで治安が変わることもある
- 移動ルートの計画:危険なエリアを避け、安全な交通手段を選定
治安のいい国に共通する特徴
世界で最も安全な国には、どのような共通の背景があるのでしょうか。
教育水準が高い
学力・雇用・犯罪抑止の関係
- 識字率と犯罪率:教育水準が高い国では、識字率が99%以上。識字率と犯罪率は強い負の相関がある
- 雇用機会:高い教育を受けた人口は、良好な雇用機会に恵まれている。失業が犯罪動機を減らす
- 社会規範の内在化:高い教育を受けた社会では、法律や社会規範を遵守する意識が高い
貧困・格差が小さい
ジニ係数など指標の読み方(ざっくり)
- ジニ係数とは:経済格差の度合いを0〜1で表す指標。1に近いほど格差が大きい
- 安全な国の特徴:TOP20の国は、ジニ係数が0.25〜0.35程度と、かなり低い(格差が小さい)
- 貧困と犯罪の関係:経済格差が大きい国では、貧困層の犯罪動機が高まる。安全な国は格差が小さいから安全
警察・司法が機能している
法の支配・腐敗の少なさが安全に与える影響
- 腐敗認識指数(CPI):腐敗が少ない国(CPI が高い)は、警察や司法が公正に機能している
- 被害者保護:警察が腐敗していないため、盗難被害時に安心して相談できる
- 法の支配:誰もが法の下で平等に扱われるという信頼が、社会全体の安全性を高める
政治的に安定している
不安定化のサイン(デモ多発・治安急変など)
- 政治的安定性指数:クーデター、内戦、頻繁なデモの有無が、国の安定性を示す
- 警告サイン:「ここ数年で政権交代が複数回起きている」「大規模デモが月1回以上」などは要注意
- 長期安定の重要性:同じ政権が数十年続く国は、国家体制が安定しているサイン
市民の規律意識とコミュニティの連帯
旅行者が感じる「安心」の正体
- 社会規範への従順性:北欧やオーストリアの人々は、法律や社会ルールを厳密に守る意識が高い
- コミュニティの結束:小さな町では、全員が互いを知っており、犯罪を起こしにくい環境
- 旅行者への親切:安全な国では、市民が旅行者に対して親切で親身。警戒心がない国ほど実は安全
海外旅行で安全性を高める実践チェックリスト
どの国を選んでも、旅行者自身の行動が最も重要です。実践的なチェックリストをご紹介します。
出発前にやること
外務省情報の確認/渡航保険/緊急連絡先の準備
- 外務省 海外安全情報の確認:anzen.mofa.go.jp で、渡航先の最新情報を確認。「危険」表示がないか必ずチェック(外務省 海外安全情報)
- 海外旅行保険:盗難、医療、緊急搬送などをカバーする保険に必ず加入。クレジットカード付帯でも可
- 緊急連絡先の記録:パスポート、クレジットカードの番号、駐日大使館の連絡先をメモ+クラウド保存
- 家族への連絡体制:行き先、宿泊先、帰宅予定日を家族に伝え、定期連絡の約束をする
- たびレジ登録:渡航前にたびレジへ登録し、現地の安全情報を受け取れるようにしておく
滞在中にやること
夜間移動の回避/貴重品管理/現地アプリ・交通の使い方
- 夜間移動ルール:夜9時以降は、タクシーやUberなど信頼できる交通を使用。一人での夜道歩きは原則禁止
- 貴重品の分散管理:全財宝を一箇所に集めない。パスポート、クレジットカード、現金は別々に保管
- 防犯バッグの使用:スリ対策用のセキュリティバッグ(ポケット多数、背中にジッパーなし)を使用
- 現地アプリの利用:Google Maps、Uberなど、信頼できる公式アプリで移動。知らない人のタクシーは乗らない
- カフェでの置き引き対策:バッグは床に置かない。席に置く場合は目から離さない
トラブル時の動き方
盗難・パスポート紛失・緊急受診の基本手順
- 盗難被害時:1)落ち着く 2)現地警察に届け出(被害届番号をもらう) 3)クレジットカード会社に連絡して停止 4)駐日大使館に相談
- パスポート紛失時:即座に駐日大使館に連絡。仮パスポート(帰国用)の発給を受ける。所要時間は通常1〜3日
- 緊急医療:大型ホテルのコンシェルジュに相談し、信頼できる病院を紹介してもらう。言語サービスがある病院を選ぶ
- 痴漢・セクハラ:毅然とした態度で拒否。被害が大きい場合は警察と駐日大使館に相談
まとめ|治安のいい国は「指標×最新情報×行動」で選ぶのが最強
治安のいい国を選ぶことは、安全な旅の第一歩ですが、それだけでは十分ではありません。世界平和度指数(GPI)、外務省情報、現地の最新ニュースを組み合わせ、最後は自分の旅の条件に合わせた最適化が必要です。
ランキングは入口、最後は自分の旅条件に合わせて最適化
本記事で紹介したTOP20のランキングは、あくまで「客観的な目安」です。
- 自分の旅のタイプ:一人旅、家族旅、バックパッカーなど、旅のスタイルにより最適な国は異なる
- 季節の影響:雨季、乾季、政治イベントなど、時期により治安が変わる国もある
- 個人の適性:言語不安、文化差への適応力なども、安心度に影響する
最終的には、複数の情報源を組み合わせ、自分の旅の条件に合った国を選ぶことが、最も安全で充実した旅を実現する方法です。
次に確認したい情報源(GPI・外務省・現地の最新状況)
- 世界平和度指数(GPI):www.visionofhumanity.org 毎年6月に最新版を発表
- 外務省 海外安全情報:anzen.mofa.go.jp 日本人向けの詳細な渡航情報
- 現地メディアのニュース:英語でその国のニュースサイトをフォロー。Twitter/Xで最新の治安情報を確認
- 旅行者向けフォーラム:Tripadvisor、Reddit、backpackers.com など、実際の旅行者の声をチェック
- 経済・情勢の最新トピック:渡航先のリスク把握にJETROのビジネスニュースも活用する
治安のいい国での旅は、ただ「安全」というだけでなく、心も体も充実できる体験になります。正確な情報と慎重な行動で、安全で思い出深い海外旅行を実現してください。

